建築雑誌オールレビュー

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2009年11月18日(水)

[新建築]11月号 [新建築]

[新建築]11月号・新建築社・定価2000円


◇巻頭論文 日土小学校の保存再生がくれた夢【★★★★☆】

 八幡浜市立日土小学校再生活動に長く関わってきた花田佳明氏(神戸芸術工科大学教授)による論文。日土小学校の設計者である松村正恒氏の生前の活動を振り返りながら、日土小学校の価値、保存再生までの道のり、保存再生計画の概要が書かれており非常に読み応えがある。また原図や保存再生計画図面、内外部の写真が掲載されているが、さらに図面や写真を付加して一冊の本にして欲しいと思うくらいだ。

 建築設計に関わるものなら日土小学校は知っているはずだ。敷地境界線を飛び越え川に向かって張り出すテラスや階段は非常に美しい。踊り場は川の上に浮かんでいるように見える。立面図や断面図の原図が掲載されているが、驚いたのは母屋、下屋、庇の関係である。下屋や庇を支える柱や方杖が軽快だし屋根勾配も様々に見える。階段やテラスをと合わせて学校内に様々なスケールの違う場所が存在しているのがわかる。断面図をじっくり見ても納まりが様々で、最初から増築あるいは再生されても注意深くデザインすれば建築の根幹がゆるがない形式がそこにあるように思えてくる。

 さらにこの論文の中で重要なのは保存再生までの道のりについて書かれていることである。保存活動は1997年7月に建築学会四国支部50周年記念企画のひとつとして、「子どもと学校建築」と題されたシンポジウムでの語らいからスタートしたとある。その後、建築学会四国支部と地元市民による保存グループ、行政のやりとりの中で保存再生が決定される。

 花田氏は保存再生の成功の要因として3つ上げている。

(1)建築学会四国支部を拠点にした専門家チームが、歴史、意匠、構造、計画、設計などの立場から自由に発言するフラットな関係の集団を形成した。

(2)研究者と建築家の混合チームだったため、具体的な設計とリンクした議論が迅速にできた。

(3)八幡浜市が保存を決断して以降、教育委員会の判断が揺るがなかった。

 ここから、どういった形のコミュニケーションが建築にとって必要かが見えてくる。

 計画の概要においても、原図未記入部分の詳細や色を痕跡から驚く程の手間をかけて再現している。最後に「夢の再生」として書かれている文章は大変重要である。花田氏は「『複数の時間』性を帯びた建築を、『保存』を特別視しない眼で『設計』し、それによって地域の新たな『関係の場』を生み出すこと。生まれ変った日土小学校からは、建築によるそういった世界構築の夢が浮かんでくる」と述べている。




◇作品[ミレニアムパビリオン]【★★★★☆】

 設計は山下保博/アトリエ・天工人。エチオピア暦2000年を祝うため、2007年に三宅理一氏を通じて在エチオピア日本大使館から依頼されたプロジェクトである。

 「日本文化会館」を建設して欲しいとの話であったものの、お仕着せのような施設をプレゼントするのではなく、エチオピアと日本にとって意味のある建築の姿を模索することからプロジェクトが始まったらしい。

 まずは建築が建つ地域の浄水の供給が30%ということから自然浄化装置としての建築から着想し、日本の使用されないで放棄されている古民家とゴンダール市の捨てられていた円形住居の躯体のみの移設による新たな空間と価値の創出を目指している。

 面白いのは、どこにでもあるが故にその価値に盲目的になっている建築に着眼し「日本文化会館」という当初のイメージとは全く違うものを提出した点である。山下氏は外部の人間としてエチオピアに入った時、古来から伝承されている円形住居が価値あるものにもかかわらず打ち捨てられている現状の発見により、日本で同じ目にあっている民家に目が向いたと推測される。

 この建築の技術は「積む」、「塗る」、「結ぶ」のほぼ3つから成り立っているという。工法としては恐ろしくシンプルであり、国境を容易に超えていける技術である。しかし同時にそのシンプルな誰でも扱える工法を用いているにもかかわらずエチオピアと日本の建築や文化の違いが浮き彫りになっている。シンプルな技術であればある程、その場の固有性が引き出せると同時に違う文化や土地と混じり合いながら発展していく可能性があるのかもしれない。




◇特別記事2 建築再生における利用の構想力【★★★☆☆】

 執筆者は佐藤考一氏(A/E WORKS)。建築再生事例が新建築誌上で増えてきていることや、東京都心のオフィス空室率が高く、また現在の日本の住宅のうち7件に1件が空家であるという現状から建築再生について述べられている。

 新築事業の駆動力の頻発がないなか、「物語性」と「再インテリア化」という二つの切り口が実例と共に紹介された後、「減床化」と「一体化」という解決策の例を挙げている。

 「物語性」とは、かつての工場や個人住宅がギャラリーや美術館に転用される場合において、改修された建物自体が展示物となり建物保存と観光資源に直結するものであるそうだ。一方で「再インテリア化」とは、物語性も増床ニーズも働かない、ごく普通の建物で希少性を持たない匿名的建物を建物利用者の入れ替え、またはテナントの入れ替えによって再生する契機を与えるものらしい。「再インテリア化」とは施主との共同設計と見なせる場合が多く、施主自身が既存建物の新たな利用形態を考案し、工事までしてしまうことも含めニューヨーク・ソーホー地区の逸話を例に挙げている。

 匿名的施主による匿名的建築物の再生の事例が紹介されていると面白いのではないかと思う。解決策は様々だろうが設計者は「なんの変哲もない建物の中に利用可能な建築空間資源を発見」する「見立ての技術」が求められているのは間違いない。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 家成俊勝]

◇家成俊勝(いえなりとしかつ)
関西大学法学部、大阪工業技術専門学校夜間部を経てdot architectsを共同で主宰。京都造形芸術大学非常勤講師。大阪工業技術専門学校夜間部非常勤講師。
archiforum in OSAKA 2008-2009コーディネーター。設計業務以外にも建築、内装、美術の施工にも関わる。

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